医師に聞く 手洗い・うがい・
マスクのすすめ(2)
長坂行雄先生インタビュー
工藤 翔二(くどう しょうじ)先生
プロフィール
公益財団法人結核予防会理事長
1967年 東京大学医学部卒業。東京大学第三内科、都立駒込病院を経て、1994年日本医科大学医学部呼吸器内科主任教授。2008年日本医科大学名誉教授、公益財団法人結核予防会複十字病院院長。2014年に公益財団法人結核予防会理事長に就任。びまん性汎細気管支炎(DPB)に対する「マクロライド少量長期投与療法」を確立した呼吸器内科のパイオニア。特発性間質性肺炎の診断基準改訂と病態解明、COPDの普及啓発と在宅酸素療法の推進など、呼吸器疾患の治療に欠かせない功績を残している。
2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより世界中が大混乱となっています。そんな中、感染を防ぐために私たちが知るべきこと、できることは何か。呼吸器専門のドクターであり、公益財団法人結核予防会理事長の工藤翔二先生にお話をうかがいました。
日頃からできる感染症対策として「手洗い・うがい・マスク」の大切さが広がってきました。私たちが家庭でできるそれらの意義や効果的な方法についてうかがいます。
手洗いの基本は石けんです。特に新型コロナウイルスは石けんに含まれる界面活性剤で洗い流すことができます。ウイルスは喉や鼻の粘膜から細胞の中に入って増殖しますので、まずはウイルスを顔につけないことが重要です。ウイルスがついたドアノブなどを消毒することも重要ですが、何よりも自分の手についたものを洗い流して、自分にうつらないこと、人にうつさないことの両方が大切です。爪の間や、指のつけ根、指をぐるぐるこすって、全体を何度も揉むように丁寧に洗ってください。
ウイルスを不活化させるという意味でのエタノール消毒ですが、手を洗えないシーンではエタノールは活躍しますが、基本は石けんで洗い流すと思ってください。心配ならさらにエタノールをつける、というのが一番よいと思います。
うがいの効果についてはいろいろ言われていますが、まずは口の中の粘膜の汚れを洗い流すことができます。ただ、うがいをしても水が喉の奥まで届かないかもしれません。口の粘膜の細胞の中にウイルスがまだ入っていないときにうがいで洗い流す作用は考えられます。うがいには喉を潤すという目的もあるとは思います。
マスクには、自分がうつらないための役割と、人にうつさないための役割と2つの面が考えられます。
家庭用のマスクには、顔に触らない効果がまず考えられます。誰でも手で顔を触る癖がありますが、マスクがあれば顔に直接触れないですし、つい指をなめてしまうようなことも防げます。これは、実は重要なことなのです。また、人からの会話や咳などで飛ぶしぶきを防ぐ効果もあります。空気感染は完全に防御できませんが、大きな飛沫は防げます。また、自分の咳・くしゃみの飛沫はマスクで防げます。
マスクには人にうつさない、人からうつらないという両方の大きな意義があり、外出したとき、ソーシャルディスタンスを取れないとき、マスクをつけることは有効だと思います。
新型コロナウイルスの世界的な流行で、感染症の原因や予防対策への正しい情報が求められるようになりました。そもそも、感染症とはどのようなものか。基本的なことについてうかがいます。
飛沫感染と飛沫核(空気)感染の2つがあります(図1)。飛沫はくしゃみ、咳などの“しぶき”のことで、この飛沫が飛ぶことで感染し、飛沫は約2m前方に飛ぶと言われています。細かい微小粒子のエアロゾルも飛沫には含まれます。風邪やインフルエンザ、新型インフルエンザが当てはまります。
新型インフルエンザでは、咳やくしゃみの飛沫を吸い込んでウイルスが鼻や喉の粘膜などに付着して感染します。新型コロナウイルスがやっかいなのは、息を吸って感染するだけでなく、接触感染もあることです。いろいろなところに付着したウイルスを手で触ってしまい、その手で鼻や口を触り、その粘膜から感染するのです。
飛沫核感染とは、飛沫の中の核に病原体があり、その周りを覆っている水分が蒸発し、中の核のウイルスや細菌が空気中に漂って感染します。はしか(麻疹)や結核です。粒子が小さいので肺の奥まで到達します。
図1 飛沫感染と飛沫核感染(空気感染)
一般に免疫力と言われますが、要するにこれは抵抗力のことです。よく眠り、よく食べて栄養をとる、そして適度な運動です。リモートワークなどの状況下では、特に運動不足になりがちなので、自ら意識しないといけませんね。
そして感染防御のための手洗い・うがい・マスクですね。約100年前のスペンインかぜでは38万人の日本人が亡くなりました。この当時のポスター(図2)には、電車の中ではマスクしましょう、家に帰ったらうがいをしましょうと描いてあります。大正時代から日本人にはこういう習慣があったんですね(図3)。手洗い・うがい・マスク、は100年前から現在も変わらず叫ばれている重要なポイントなのです。
図2 「汽車電車人の中ではマスクせよ
外出の後はウガヒ忘るな」と書かれています。
(国立保健医療科学院図書館所蔵,
内務省衛生局編「流行性感冒」1922.3)
図3 スペインかぜ大流行のためマスクをする女学生
(Mainichi Shimbun / Public domain)